from ARGONAVIS Official Site
2025.07.15Live/Event
ボーイズバンドプロジェクト「from ARGONAVIS」に登場するバンド・Fantôme Irisが、2025年7月6日、品川プリンスホテル ステラボールにて「Fantôme Iris LIVE 2025 - Révérence -」を開催した。梅雨明けきらぬ猛暑の東京、現実世界から切り離されたような箱の中。吸血鬼と人間というふたつの種族が共存する国を目指し旅する5人が見せた、新たなる物語をここに記していく。
2025年内で無期限の活動休止を発表した「from ARGONAVIS」プロジェクトは、この1年、各バンドがひとつの区切りとなるライブを順次開催している。6月の風神RIZING!に続く今回のFantôme Irisは、名古屋出身のヴィジュアル系バンドで、舞台上で展開される独自の世界観のもと活動を続けてきた。そんな彼らがこの日行うライブには、5人を愛してやまない眷属(Fantôme Irisファンの愛称)たちが多数訪れ、会場をびっしりと埋め尽くした。彼らが見せてくれる景色をひとつも見逃すまいとする真剣な想いが伝わってくるようだ。
暗闇の中、鐘の音が響いた。薄明かりの中、メンバーたちが1人1人現れポジションに着いていく。厳かなイントロが始まり、すべての吸血鬼を統べる王・FELIX(演:ランズベリー・アーサー)が静かに歌い出す。長い髪を一つに束ね、頬に「F」の文字が、首には百合の紋章が施されている。その一挙手一投足に、眷属たちが息を飲んで見入っているのが伝わってくる。夜会は、あまりにも美しい「ラプソディア」の旋律で幕を開けた。黙する聖職者・Dが叩くドラムの力強い響きが合図となり、メンバーも眷属たちも、一気に燃え広がる炎のようにテンションを上げていく。
次の「XX in Wonderland」では、ここまで持ち場所を離れなかった竿隊も、待ってましたとばかりにステージ前方へ躍り出る。苛烈な夜の女王・HARUがピックを咥えて指弾きでベースを響かせ、その妖艶な姿に大歓声が上がった。そして、跳ねるように動き回る残虐非道の申し子・ZACKと、音圧に負けない激しさを見せる怜悧な王の右腕・LIGHTのギターの音色が絡み合う。続けて投下された「Janus」では、雄大なラスサビで眷属たちがステージに向かって両手をいっぱいに広げる。すでにクライマックスを迎えたのかと思えるほど、会場はたった3曲でFantôme Iris唯一無二の世界に包みこまれてしまった。
FELIXが「Bonsoir、我が眷属たちよ」と語りかけ、メンバー紹介へ。そして恒例の“ワインで乾杯”ののち、「生も死も等しく訪れるさだめ。ならばともに踊り明かそうではないか」と告げ、久しぶりの生演奏となる「棺の中のセラヴィ」を投下。人ならざるものとのお茶会をイメージした本曲は、怪しくもどこか楽しげな雰囲気でいっぱいだ。今回の会場となったステラボールは横に広いこともあり、ステージの景色が広げた絵本のように目に映る。その雰囲気を引き継ぎ、季節外れのお祭りで盛り上げるのが「Spooky Halloween Night」だ。指揮するようなFELIXに操られ、眷属たちの掲げる腕が左右に揺れる。続く「CHÉRIE」は最新アルバム「Réalité」に収録された楽曲で、この日が初演奏となる。思わず体を揺らしたくなるような、スイングするビート。台に腰掛けてリズムに乗るFELIXも実に楽しそうだ。そして、スローダウンするSEから次の「un:Mizeria」のイントロが始まると、わっと歓声が上がった。胸に迫る旋律が会場いっぱいに響き、聴く者の涙腺を刺激する。そして、漆黒の闇に差し込む月の光のような「下弦の月夜」から「影と光」へ。LIGHTがFELIXにひざまずいたこの曲は、かけがえのない存在と運命の出会いを歌ったものだ。それはきっと、Fantôme Irisと眷属を指すものでもある。ストリングスの音色が美しい「miroir」では、FELIXのハイトーンボーカルが圧巻。曲が終わった瞬間、ようやく我に返るような没入感だった。
妖しいSEの中、ステージ後方に真っ赤な月が浮かび上がる。かと思うと、この上なくドラマティックで力強いサウンドで聴かせる「purgatorio」がスタートした。眷属たちは拳を上げ、その音に身を任せている。そして激しい勢いはそのままに「Vamserker」へ。この曲は、前回Fantôme Irisが出演したライブ(2025年2月「from ARGONAVIS LIVE 2025 - Chaotic Stage -」)で初披露されており、「次のライブでも楽しめたら」と語られていたものだ。その言葉どおり、眷属たちもメンバーも頭を振って狂乱の渦に身を投じた。中央の台に寝転がるZACKに歓声が上がり、「さあ来い!」とのFELIXの言葉を合図に、ZACKとLIGHTがツインギターを披露する。激しく狂おしいサウンドでありながら、どこまでも美しい――そんなFantôme Irisらしさが詰まったナンバーだった。
曲が終わり、Dがドラムを4回叩いたのをきっかけにFELIXがステージから捌ける。ここで始まった楽器隊4人によるインストセッションに、眷属たちは変わらぬテンションで盛り上がる。ZACKが体の一部のようにギターを操り、狼の鳴き声のような音色を響かせ、ステージを後にした。驚いたのもつかの間、次はHARU、Dまでもがその場から去っていく。そしてひとり残ったLIGHTもまた、歪みを帯びたギターの咆哮を響かせたまま姿を消した。
誰もいなくなったステージに、いつしか現れた巨大なスクリーン。そこに、Fantôme Irisのかつての夜会や宴の様子が映し出される。初めて彼らが我々の前に現れた日や、懐かしいマスク姿に、コロナ禍のあとに初めて声出しでライブを行った“不思議の国”テーマのライブなど……数々のモノクロ映像は反転しており、これまで彼らが幾度となくモチーフとしてきた“鏡”を思い起こさせた。今はもう手の届かない過去を見ていると、熱いものが込み上げてくる。いつしか反転した映像は元に戻り、古いアルバムをめくるように過去の記憶を辿っていく。
そして、再びステージの上に現れたメンバーたちが黒いマントを取り去ると――その下には真っ白な衣装を身に纏っていた。これまでに見たことがない姿に、フロアから大歓声が上がる。ざわめきが収まらぬ中、5人はポジションにつく。FELIXが「さあ眷属たちよ。夜会の第二幕といこうか!」と叫び、「銀の百合」が花開いた。これまで彼らの世界を彩っていた“闇”が、“光”へと形を変えたような、生まれ変わったかのような姿。「何もかもはこの夜のため」という歌詞が、ストレートに響いてくる。「銀の百合」は過去もっとも多く演奏された曲でありながら、今夜ひとつの頂点へと達したように感じられた眷属は少なくないだろう。続いてHARUがステージ中央に躍り出て、ベースから展開される「狂気のメロディ」へ。「もっといけるだろう!」とのFELIXの煽りに、眷属たちが大きな声で応える。畳み掛けるように披露された「ザクロ」、「Into the Flame」というFantôme Irisきっての暴れ曲で、会場のボルテージは最高潮に達した。それにしても、無垢なイメージのある真っ白な衣装へと装いを変えた状態で、これらの曲を演奏するギャップが凄まじい。もはや黒を纏った吸血鬼から神々に姿を変えた5人が、狂乱の宴を繰り広げているかのようだ。彼らを崇拝する眷属たちも、その勢いに負けじと力いっぱいシャウトしている。
演奏が終わり、FELIXが眷属たちに感謝を述べる。それから「やっとだ。やっとここまで来れた」と話し始めた。彼は闇の中を彷徨い、抑えられない衝動が眷属さえも傷つける時があったのだと。これは、彼らの物語を見守ってきた我々だからこそ理解できる話だ。自らを支配していた影に脅かされていた彼は、彼を愛する者たちによって自分自身を取り戻した。そして「(今日の)この姿は君たちの深い愛への感謝。そして、我らが進む輝かしい未来を示す道標だ」と告げ、本編最後の曲として「Brilliant Days」を届けてくれた。新たなステージへ向かう決意を歌うこの曲は、まさに今のFELIX、そしてFantôme Irisを表しているのかもしれない。痛みや傷があったとしても、丸ごと抱えて輝く未来へと進んでいく――FELIXは、歌の途中の「諦めた夜も 憧れた過去も 自分に嘘をつき傷つけた心も 今へ 未来へ 繋がっていくのなら」というセリフのあと、アドリブで「繋げてみせよう!」と力強く宣言した。そんなFELIXの元へ、LIGHT、ZACK、HARUが並び立つ。その4人をDが後ろから見守っていると、頭上から真っ赤な花びらが降り注いだ。いつかのライブで、FELIXは一輪の百合の花をステージに置いて去った。けれど今は、共に歩むメンバーが側にいて、それを祝福するかのように無数の花びらが降り注いでいる。その景色は言葉を失うほど尊く美しく、目に焼き付いた。
アンコールの声に応え、メンバーが再びステージに現れた。そして、情感に満ちた旅立ちの歌「histoire」を披露。アコースティックギターの音色が印象的で、これもまた聴く人の涙腺を刺激する曲だ。歌が終わると記念撮影が行われたのだが、撮影に当たってFELIXは眷属に「『ファントム』と言ったら、拳を上げて『イリス!』と返してほしい」と希望し、和やかな一瞬が訪れる。それを終えると、FELIXは再び「皆、今日は本当にありがとう」と語りかけた。あたたかい拍手と「ありがとう」のコールを受けたFELIXは、堪えきれない想いを顔ににじませた。そして目の前の眷属、そして彼らのステージを見守る全ての人々へ愛のこもった言葉を届けてくれた。
本当は伝えたい言葉をたくさん用意していたんだが、音で通じ合ったことで、無粋な言葉はすべてどこかへ消えてしまった。これを聞くのは野暮かもしれないが……皆、音楽は好きかい?(歓声を受けて)我らも大好きだ。音楽は1人でも素晴らしいが、仲間や君たちと共にあることで、世界はもっと奥深く豊かになっていく。そうして育てた音という名の炎は、やがて人々の心で消せない炎のように灯り続ける。今日を迎えられたのは、炎を絶やさずにいてくれた眷属たちのおかげだ。当たり前が当たり前ではないと気づかされた今夜、愛しい眷属たちに心からの感謝を。影で支えてくれる仲間たち、そして我らの音楽に欠かせない眷属たちにも、盛大な拍手を送ってほしい。
我らは今日の夜会を境に、次への準備に入る。そう長くは待たせるつもりはないよ、我は不死だが、Dや君たち人間の命には限りがあるからね。今宵、この場で「必ず戻って来る」と皆に誓おう。だから、皆も約束してくれ。炎を絶やさず、その時が来たらまた会いに来ると!
――我らの名はFantôme Iris。人間と吸血鬼の共存を目指し歩み続ける者。そして、変わりたいと願うすべての者の味方だ!
そしてアンコールラストは、文字通り“消せない炎”を歌った「ピエロ」。FELIXは眷属たちに「体力を残すなよ。全力でかかってこい!」と煽る。そこにいた全員が解き放った熱量で、会場中が燃えるようなエネルギーに満ちていた。それが頂点に達した時、すべての演目が終了となった。終わってみればあっという間のような、あまりにも濃密だった時間。メンバーたちはかけがえのないこの時を惜しむようにしばらくステージに残り、眷属たちを見つめていた。そしてFELIXが声をかけ、5人が横並びになって手を繋ぎ、深くお辞儀をした。これまでのFantôme Irisのステージでは、王であるFELIXが最初にステージを後にしていた。だが今日、最後に残ったのはFELIXだ。彼は手を振りながら、フロアの1人1人と目を合わせるようにゆっくりと歩いていく。そして胸に手を当てて今一度深く頭を下げ、ステージを去っていった――。
ここからは余談だが、「from ARGONAVIS」のライブのアンコールでは、演者やサポートメンバーがキャラクターではなく、演者として“素”の姿で話したり演奏したりすることが通例で、Fantôme Irisもまた例外ではなかった。だが、ひとつの区切りとなるこの日のライブで、Fantôme Irisは最後まで"舞台上での設定の姿"でステージに立つことを選んだ。そもそも作中のFantôme Irisは、現実と“舞台の上での設定”を行き来するバンドであり、さらにそこへキャラクターと演者という構造が加わっている。だが、だからこそ「物語の中の彼らが作りあげた世界を、そのままの形で完成させる」ことを目指したように感じられるのだ。実際、このアイディアはFELIX役のランズベリー・アーサーの申し出により実現したものだったそうで、制作や演者たちの作品に対する愛と思い入れが強く感じられるエピソードだ。
幾重にも重なった願いや想いが、この5人を形作っている。それこそがFantôme Irisという、永遠に枯れない花なのだ。永遠とは、現実と幻想の間に生まれるものなのかもしれない。いつかまた2つの世界が交わり、彼らに会える日を心から願う。
[取材・文]玉尾たまお
Photographer:西槇太一
公演名:Fantôme Iris LIVE 2025 - Révérence -
日時:2025年7月6日(日)
開場 17:00 / 開演 18:00
会場:品川プリンスホテル ステラボール
出演:Fantôme Iris
FELIX:ランズベリー・アーサー
Support Members Gt.冬真(as LIGHT)、Gt.YOUSAY(as ZACK)、Ba.めんま(as HARU)、Dr.植木建象(as D)
M1. ラプソディア
M2. XX in Wonderland
M3. Janus
M4. 棺の中のセラヴィ
M5. Spooky Halloween Night
M6. CHÉRIE
M7. un:Mizeria
M8. 下弦の月夜
M9. 影と光
M10. miroir
M11. purgatorio
M12. Vamserker
M13. 銀の百合
M14. 狂喜のメロディ
M15. ザクロ
M16. Into the Flame
M17. Brilliant Days
EN1. histoire
EN2. ピエロ
【Fantôme Iris LIVE 2025 - Révérence -】の開催を記念した、アフタートーク配信のアーカイブを公開中!
出演:ランズベリー・アーサー(Vo.FELIX)
Support Members
冬真(as Gt.LIGHT)、YOUSAY(as Gt.ZACK)、めんま(as Ba.HARU)、植木建象(as Dr.D)
ご視聴はこちら:https://youtu.be/H9MwW9Fxqbs
※アーカイブは 2025年8月17日(日)23:59 までご視聴いただけます
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