from ARGONAVIS Official Site
2025.08.08Live/Event
ボーイズバンドプロジェクト「from ARGONAVIS」に登場するバンド・εpsilonΦが、2025年8月3日、TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)にて「εpsilonΦ LIVE 2025 - Code 503 -」を開催した。εpsilonΦのワンマンライブは、「εpsilonΦ LIVE 2024 -Overlord-」(2024年3月/大宮ソニックシティ 大ホール)以来、約1年半ぶり2回目。作中で最も若く、底知れない実力を持つ彼らのライブの模様をレポートする。
「極彩色の不協和音」なるキャッチコピーが掲げられたεpsilonΦは、下は中学生から上は大学生までで構成された、京都出身のオルタナティブロックバンドだ。ジャンル的にライブで再現するのは難しい楽曲も多いのだが、彼らはそれを再現するどころか、“生”ならではの、秩序と混乱がせめぎ合うような雰囲気をも作り出して見せるのだ。
ベースの二条 奏(声:市川太一)とドラムの烏丸玲司(声:立花慎之介)の影ナレを聴きながら開幕を待つ会場は、観客たちが持つ色とりどりのペンライトの明かりでいっぱいになっている。本プロジェクトに登場するバンドはそれぞれイメージカラーがあることもあって、ライブの際はどことなく統一感のある景色に感じられるのだが、εpsilonΦの場合、“何色”とは形容しがたい景色になるのが面白い。
そんなことを感じていると、まだ仄暗いステージにメンバーが集結した。小気味良いリズムを刻むベースとドラムによるイントロが流れ出す。ボーカルの宇治川紫夕(演:榊原優希)は、客席とメンバーを見下ろす高い位置に立ち「世界は僕のもの」とでも言うように両手を広げた。その出で立ちにこれ以上ないほどしっくりくるオープニング曲は、「Overlord」。複雑なメロディを見事に再現する紫夕のハイトーンボイスに、ギター&ボーカルの二条 遥(演:梶原岳人)のハスキーな歌声が絡み合う。個々の楽器や声はどれひとつぼやけることなく、すべてがエネルギーとなって突き刺さってくるようだ。
「お前ら声出せんのか? もっと行けんだろ立川!」と叫ぶ遥は、歓声を聞いて「やるじゃねえか」と不敵な笑みを浮かべる。普段はクールに見える遥も、紫夕に負けず劣らずご機嫌のようだ。そんな彼らが投下した次のナンバーは「オーバードライブ」だった。紫夕は途中の歌詞を京都弁に変え、「声荒げないならやめてあげられへんわ」と笑う。続く「S&S」は、今年2月に日比谷野音で行われた3マンライブ(「from ARGONAVIS LIVE 2025 - Chaotic Stage -」)で初披露されたナンバーだ。ステージを覆い尽くす巨大な渦巻きを覚えているファンも多かったと思うが、この曲もまさに“混沌”。スピード感あふれるサウンドを支える二条 奏のベースと烏丸玲司のドラム、その一方でまったく感情の読み取れない表情でシンセサイザーを奏でる鞍馬唯臣。εpsilonΦは本当に、音だけでなく見たいところも多すぎて困ってしまうバンドだ。
ご機嫌な様子の紫夕が「ここにいる全員、僕らと壊れるくらいに遊んでくれはるんやろうな?」と問いかけ、客席から歓声が上がると「言うたな? 全員覚悟してな」と声を上げて笑った。遥も「気抜く暇なんてねえから、最後まで俺たちの音に食らいついてこいよ!」と発破をかける。そして、紫夕のソロ歌唱曲「Sake it L⓪VE! 」へ。観客たちは、紫夕の望むとおりに手拍子を合わせ、コーラス部分を歌う。それを聴いた紫夕の「やればできるやないの」という言葉は、ファンにとってのご褒美だ。高まったテンションは、次の「Play With You」へ続いていく。こちらも可愛らしさのあるポップなナンバーだが、歌詞にはしっかりと毒が仕込まれている。紫夕は天使のような微笑みを浮かべ、踊るようにステップを踏みながら歌っていた。
銃声の音が響き、次の「I'm picking glory」では、曲の主人公である奏がステージ中央に立った。εpsilonΦの中でも極めてダウナーな雰囲気を持つこの曲が、“いつも明るい人気者”の奏をフィーチャーしたものなのも面白い。この曲に限らず、εpsilonΦは人間のあらゆる感情を音楽に昇華し、美しい不協和音を奏でてみせる。
紫夕がステージから去り、変わって遥が登場。次は遥のフィーチャー曲、「Heroic」だ。途中のコーラスを全員一緒になって歌う観客に「いいじゃねえか」と微笑む遥。遥はステージ後方の高台に上がり、気持ち良さそうに歌っている。天才肌の弟である奏と自分を比べて劣等感を抱いていた遥だが、ここでは彼が主人公(ヒーロー)なのだ。そうして歌い終えた遥から出たのは、「ありがとう!」の一言だった。
ここで、鞍馬唯臣(声:石谷春貴)による幕間のボイスドラマがスタートした。プロデビュー後、εpsilonΦは玲司の父に関わるニュース記事に悪影響を受けていた。実はそれをリークしたのが唯臣だったのだが、人間の様々な感情を知りたいと考える彼は、自分の想像よりも騒動が大きくならなかったことを残念に思っている。唯臣は人付き合いの中で学んだ考え方を参考にして思いを巡らせるうち、自分が“今のεpsilonΦは面白くない”と感じていることに気づく――。
そんなモノローグののち、「End of reason」が投下された。どこまでも歪で不穏で美しく、惹きつけられてやまないサウンド。あまりの没入感に、曲が終わった瞬間不思議な夢から目覚めたような気分になる。このバンドの力量にあらためて驚いていたのもつかの間、長いSEに再び術をかけられるようにεpsilonΦの世界に引き込まれていく。暗闇の中で微動だにしなかった紫夕が歌い始めたのは、この日が初演奏となる「Malus」。超絶技巧の演奏をバックに、胸の中にあるものを絞り出すように歌う紫夕。ストーリー上では本曲がどのように作られたのかは明かされていないため、我々はそれを想像するほかない。歌詞に繰り返し登場する“存在”は、真正面から向き合うにはあまりにも深い言葉だ。
暗闇の中でうずくまったまま動かない紫夕は、まるで海の底に沈んでしまったかのように見える。そんな彼に光が指し込み、「レゾンデートル」が流れ始めた。ファンなら知っての通り、これは紫夕が一人の10代の少年として、あまりに素直に言葉を綴った歌だ。まるで泣いているようにも聴こえる歌声や「ここにいるから」という叫びは、きっと聴いていた人すべての心に刺さったことだろう。
ステージは再び幕間ドラマへ。唯臣は、一人で「不協和音」について考えていた。時が経つにつれ、以前のような雰囲気ではなくなったεpsilonΦ。普通に考えれば平和であるほうが良しとされるものだが、唯臣はそうではない。彼はメンバーの精神的な不安定さとその先にある音を求め、それこそがεpsilonΦだと結論づける。そうして唯臣は、スクリーンを見ている我々に「皆さんも、そう思いますよね?」と微笑みかけた。……ここで見せた唯臣の、純真そのものといった微笑みに客席から悲鳴が上がる。やはりεpsilonΦには、まだまだ波乱が待っているのだろうか。
“狂気”のモノローグから、εpsilonΦの楽曲の中でも高い人気を誇る「オルトロス」へ。遥の絶叫から始まったこの曲は、遥と奏という双子の複雑な関係性を歌に昇華したものだ。生で聴くことで、苦痛や執着、嘲笑といったお世辞にも美しいとはいえない感情が音とともに渦巻く光景が展開されていく。それがどんなに激しいものでも、観客たちは「もっと見たい」とばかりに歓声を上げる。
ラストスパート、まずはεpsilonΦの始まりにして看板曲の「光の悪魔」。「今日の餌食は誰だい?」と歌いながら遥が客席を指差し、紫夕は「すべて歪んでる」と絶叫した。あらためてεpsilonΦは世界中探してもどこにもいない、唯一無二のバンドであると、そう感じた。
最後のMCで、紫夕が「ええ気分やわ」と微笑んだ。それからこう続けた。「約束された未来なんてあらへん。せやけど、傷つけ壊しあって、ボロボロになりながらでもεpsilonΦの音楽は止まらへん」と。絶望の未来が待っていても、僕らの音楽は鳴り止まないと約束する――そう伝え、「息が止まるその最後の日までついてきてな」と、ラストには初演奏となる「Re:ノイズ」を投下した。その演奏はどんなに言葉を尽くしても語りきれないほど、あらゆる想いが込められているように見えた。曲が終わり、紫夕はステージから捌けようとして何か思い立ったかのように戻ってきた。そして、「みんな、また会おうな」と微笑んだ。
アンコールは「re:play」からスタート。ここで、本編では遥のギターを袖で担当していた藤井健太郎が登場、さらにシンセサイザーの翔馬がショルダーキーボードで演奏し、歓声を浴びた。冷めやらぬ熱気を再びかき回すように、6人のεpsilonΦによる音の波が会場をぐるりと支配する。“復讐”というこれまた極めて攻撃的なテーマにも関わらず、テンションの上がるビートが観客を沸かせた。
ここからは「from ARGONAVIS」恒例、キャラクターではなく“素”のキャストとしてのMCタイムだ。榊原と梶原は、「観客からすごい熱気が伝わってきた」と盛り上がりを喜んでいる。初演奏の「Malus」について榊原は、「『レゾンデートル』に近い、紫夕の内側が少しだけ見える曲」と、キャラクターの気持ちを考えながら歌っていたと語る。同じく初演奏の「Re:ノイズ」について、梶原は「特に気合いが入ったし、最後の曲だったのでドキドキした」と言い、曲の前の紫夕のMCが熱くて素晴らしかったと絶賛。サポートメンバーからも様々な裏話が飛び出し、見守るファンを喜ばせた。ちなみに、6月に行われた風神RIZING!のライブで明かされた「風神RIZING!とεpsilonΦのリハーサルの様子が全然違う」というエピソードについて、εpsilonΦとFantôme Irisどちらのサポートメンバーでもあるめんまから「Fantôme Irisも真面目です」という発言があり、会場が笑いに包まれた。
そして最後に、すべてのメンバーからメッセージが届けられた。
僕はこのコンテンツの立ち上げ当初から細く長く関わらせていただいていました。レコーディングから始まり、曲を作ったり、モーションをやったり……そして気づいたらステージ袖にいて、アンコールだけ出てくる人になってました(笑)。休止にはなりますが、また同じメンバーでステージに立ちたいですし、曲も書きたいです。皆さんと同じように再開を楽しみにしております!
僕もこのコンテンツにはレコーディングでたくさん参加させていただいていましたが、デモのかっこよさを越えようと自分の技術を最大限発揮してきました。まさかライブで叩くことになるとは思っていなかったので、自分のやったことを後悔したりして(笑)。皆さんの熱量に影響されて、今日は熱い烏丸玲司だったと思います。また機会があればぜひ皆さんにお会いしたいです。
ライブに関わらせてもらって5回目になりますが、回を重ねるごとにいろいろと真面目に(笑)取り組んだりして、アレンジも華やかになっていきました。唯臣というキャラクターとしての演奏は難しかったですが、どうやれば皆さんが作り上げた楽曲を唯臣として演奏できるかを、すごく考えて取り組みました。また機会があれば、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。
あっという間でしたね。実は以前自分の誕生日とリハが重なったとき、梶原さんが「いつも最高の弟をありがとうございます」って書いたメッセージカードをくれたんです。めちゃくちゃ嬉しかったので、いつかまた最高の弟として一緒にステージに立てることを願っています。今日は本当にありがとうございました!
遥は葛藤を抱えながら、でも誰より音楽にまっすぐ取り組んでいます。最後だしみんなで力を合わせて頑張るぞ! と思ってはいたのですが、唯臣から「不協和音がないとεpsilonΦらしくない」って言われちゃったので(笑)、僕も心の中にそれを留めてライブに臨みました。思いっきり気持ちを発散したいなと……思い入れのある「オルトロス」なんかは音源よりもライブが初披露だったんですよね(※2022年1月「from ARGONAVIS 1st LIVE -始動-」)。歌うとしんどいんですけど(笑)、それもεpsilonΦらしいなと。今日はたくさんの曲をそういう気持ちでやらせていただきました。紫夕くんが「僕らの音楽は続いていく」と言ってくれたので、僕もそれを信じて、楽しみにしています。
活休前のεpsilonΦ単独ラストということで、どう表現できるのか、過去の自分をどう超えれられるのかなど、いろいろなことを考えながら臨みました。でもいざステージに出てみたらやっぱりすごく楽しくて、自分が意図していた以上に舞い上がってしまいました。今日こうして来てくれた皆さんや画面の向こうの皆さんに、「これがεpsilonΦやで!」ってお届けすることができて、本当に良かったなと思っています。僕の言いたいことはだいたい紫夕くんが言ってくれましたね。僕は紫夕くんのMCが大好きなので、いろんな想いを込めました。きっとまた会えるぜ! ぜひぜひ皆さま、お楽しみに! ありがとう!
そしてアンコールラストは「Cynicaltic Fakestar」。キャラクターではなく素のキャストとして演奏されたこの曲では、全員が心から楽しそうな表情を見せていた。εpsilonΦのライブ本編では見ることの出来ない光景に、見守るファンは熱狂で応える。色とりどりのペンライトが輝く客席は、ライブ前には統一感というより形容しがたい景色に映っていた、だがこの時は、そこにいた全員の“嬉しい”や“楽しい”といった幸せな気持ちを表しているかのように感じられた。
リアルライブが開催される度に、唯一無二の存在感を示してきたεpsilonΦ。作中の彼らは「不協和音」なバンドでありながらも、音楽を愛する気持ちはどのメンバーも同じはずだ。だからこそ彼らの音楽は美しいし、心に強く訴えかけるのだろう。この日のパフォーマンスは、そうした根幹の部分を強く感じさせるものだった。
高い実力を持ちながらも、まだまだ変化や進化の兆しを感じさせるεpsilonΦ。彼らがどのようなバンドになっていくのか、これからも見守り続けたい。
[取材・文]玉尾たまお
Photographer:白石達也
公演名:εpsilonΦ LIVE 2025 - Code 503 -
日時:2025年8月3日(日)
開場 17:00 / 開演 18:00
会場:TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)
出演:εpsilonΦ
宇治川紫夕:榊原優希、二条 遥:梶原岳人
Support Members Ba.めんま(as 二条 奏)、Syn.翔馬(as 鞍馬唯臣)、Dr.北村 望(as 烏丸玲司)、Gt.藤井健太郎
詳細:https://argo-bdp.com/live/post-40806/
01. Overlord
02. オーバードライブ
03. S&S
04. Sake it L⓪VE!
05. Play With You
06. I'm picking glory
07. Heroic
08. End of reason
09. Malus
10. レゾンデートル
11. オルトロス
12. 光の悪魔
13. Re:ノイズ
EN1. re:play
EN2. Cynicaltic Fakestar
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