OFFICIAL

from ARGONAVIS Official Site

News

2022.06.22Info

【L★R Rock Battle】AFTER STORY 1章【Argonavis】

 3ヶ月に渡る「L★R Rock Battle」が終了した、6月のある日。

 雌雄を決した5バンド――Argonavis、GYROAXIA、Fantôme Iris、風神RIZING!、εpsilonΦには、主催のL★R Rock Battle運営 からそれぞれに二泊三日の温泉旅行が贈られた。一同はひとときの休息を求め、山あいの静かな温泉旅館に出向いたのだった――。

 「うーん、やっぱ空気が美味いなー!」
 バンの運転席から降りたArgonavisの五稜結人が、大きく伸びをしながら深呼吸をする。
続いて現れた的場航海も、目の前に広がる自然豊かな景色に目を細めた。
「ユウ、運転お疲れさま。本当だ、ここは景色も綺麗で癒やされそうだね」
「うん! ……ねえ、僕たちが泊まるのって本当にこの施設かな? すごく豪華なところみたいだけど」

 ころころと丸いシルエットの犬の“ぽんちゃん”を抱いた七星 蓮が、少し不安そうな目でメンバーを見る。すると、桔梗凛生、白石万浬がそれに答えた。
「ああ、間違いない。かなり大規模な旅館だから、高級な離れからリーズナブルな一室まで、様々な部屋が用意されているようだな」
「俺たち優勝したんだよ!? さすがに優勝バンドはランク高めの部屋でしょ」
 ドヤ顔でアピールする万浬に、航海がすかさずツッコミを入れる。
「ま、ジャイロと同率一位だったみたいだけどね……」
「でも、すごいよね。那由多くんたちと肩を並べたってことだもん」
「ああ。これもきっと、応援してくれたみんなのおかげだよな」
「だからこそ、これからももっと頑張らないとね」
「そうだな。そのためにも、この休み中に英気を養って次へとつなげていこう」
「うんうん! ともかくこの旅館は食事も豪華っぽいし、普通に泊まったらめちゃくちゃ高いはずだよ。でも、今回は招待だから全部タダ! たーっぷり堪能しないとね♪」
 指で円マークを作りながらにんまりと笑う万浬に、皆が笑いながらうなずいた。
「キャン 、キャン !」
「あっ、ぽんちゃんも嬉しいって!」
「ぽんちゃんをペットホテルに預けようとしたら、蓮のほうが寂しそうな顔をするんだもんなあ」
 頭を撫でる結人の手を、ぽんちゃんがふんふんと嗅ぐ様子を見ながら蓮が言った。
「みんな、ごめんね……でも旅館がペットOKで良かった。面倒はできるだけ僕が見るから」
「気にするな、七星。俺たちも手伝うし、大変なときは遠慮せず言うんだぞ。せっかくの休日だし、いい旅行にしよう」
 凛生の言葉を合図に、5人はうきうきと旅館に向かっていった。

 Argonavisメンバーの部屋は、敷地内にある離れの空間だった。
 夕食まで時間があったため、部屋に備え付けの露天風呂に入る者、敷地内へ散歩に出る者と様々だったが、結人はこの施設の売りのひとつだという、本格サウナエリアに行くことにした。最近流行りの、“ととのう”体験をしてみたかったのだ。
 
「えっと、まずは少しだけ身体をあっためるのが先だったよな……」
 結人は事前に調べた“サウナの作法”を思い出しながら、洗い場で髪と身体を洗い、しばしの間お湯に浸かった。そしていよいよ、丸太小屋を模した立派なサウナ室に向かってみる。そっとドアを開いてみると、とてつもなく熱い湿った空気が流れ出してきた。
「うおっ、あっつ!  ……あっ、す、すみません!」
 水蒸気の向こうにひとつの人影が見え、結人は大声を出してしまったことを先客に謝った。すると返ってきたのは、意外にも聞き覚えのある声だった。
「……もしかして結人か?」
「そう、ですけど……。あれっ、なんだ。礼音か!」
ベンチに座っていたのはGYROAXIAの美園礼音だった。結人は知った顔にホッとすると同時に、礼音とはまだわだかまりが全く無いとは言えない関係なことを思い出した。結人はかつて、GYROAXIAの旭 那由多、里塚賢汰、美園礼音とバンドを組んでいたことがあるのだ。他にも人がいるならいざ知らず、そんな相手とふたりきりの状況に複雑な気持ちで立ち尽くす結人。それを見た礼音は、再び声をかけた。
「……なんだよ。そんなとこで突っ立ってないで座ればいいだろ」
「そ、そうだよな。じゃあ、お邪魔しま~す……」
「ふっ、なんだよ『お邪魔します』って。俺の家じゃないっての」
「はは、たしかに」
 思わず笑ってしまった礼音に、結人も気持ちがほぐれたことを感じながら、近からず遠からずの位置に腰掛けた。

「礼音はいつ来たんだ? 俺たちはほんの少し前に着いたんだけど」
「俺は今日の昼過ぎかな。たぶん、他のメンバーはこれから着くんじゃないか。うちは現地集合だったから」
「ジャイロらしいな。俺たちはみんなで一緒に車で来たんだ」
「そうか。それもアルゴナらしいな」
「……」
「……」
 静かにヒーリングミュージックが流れる室内。暑いながらもリラックスできる環境ではあるが、何も喋らないと少々気まずく感じるのは礼音も同じだった。
「……結人はよくサウナに来るのか?」
「いや、実は初めてでさ。礼音は?」
「俺は何回か……。といっても、こんなに本格的なのは入ったことないな。ここ、ロウリュも出来るしアウフグースもあるらしいぞ」
「ロウ……なんだそれ? 初めて聞くな」
「ロウリュってのは……ほら、そこに熱くなった石が積んであるだろ。それに水をかけて出る水蒸気で、湿度と温度を上げるんだ。アウフグースってのは、その蒸気を『熱波師』にタオルで仰いでもらって熱風を浴びるやつのことらしい」
「へえ~! すげえな礼音、詳しいんだな」
「いや、やったことはないんだけどさ。ここに来る前、ネットで調べたんだ」
「他にお客さんもいないし、ちょっと試してみてもいいよな?」
 結人がいそいそと柄杓に水を汲み、焼けた石にかけてみる。すると、ジューッという音が響き、白い水蒸気が立ち上った。
「うお……すげえ。なあ礼音、なんか一気に暑くなってきた気がしねぇか!?」
「本当だな……。湿気が増したし、空気を思い切り吸い込むと肺まで熱くなる気がする……」
「俺、身体から汗が吹き出してきたぞ?っていうか礼音もやばいな。もはや滝みたいになってるけど」
「お前より先に入ってたからな……」
「でも、思い切り汗をかくのって気持ちいいな!」
「まあな」
 結人は流れる汗をタオルで拭いながら、新しい話題を切り出す。
「気持ちいいって言えばさ、LRバトルも良かったよな。やってて楽しかったし、お客さんの前で演奏できるのはやっぱ最高に気持ちいいぜ」
「ああ。一回の公演は長くないけど、それを何回も繰り返すって新しい試みも面白かった」
「そうだな。演奏するたびに発見があった気がする 」
「お客さんも近かったし、反応が良かったよな」
「ふう、それにしても暑いな……。ところで、ジャイロの次のライブは決まってるのか?」
 汗で濡れた髪をかきあげながら礼音が答える。
「俺たちは、夏にツアーをやることが決まってる。この規模は初めてだから気合が入ってるよ」
「実は俺たちも秋にツアーがあるんだ。LRバトルでは優勝を分け合う形になったけど、今度はお前らにも負けない、すごいライブをするつもりだ」
「そうか。……でも、俺たちは王者だ。どんなバンドにだって負けねぇよ」
 ジャイロメンバーらしい自信ある礼音の言葉に、結人は思わず反発した。
「は? やってみないとわかんないだろ、そんなこと……」
「わかるっての……」
「じゃあ…… 試しにじゃんけんしてみるか? 今……」
「はあ? なんでじゃんけんなんだよ。お前がやりたいなら、別にいいけどさ……やるなら1発勝負だぞ」
「よしわかった。じゃんけん、しょっ!」
「おいなんだよ『じゃんけんしょ』って。『じゃんけんぽん』じゃないのかよ、力が抜けるな……」
「北海道じゃ『じゃんけんしょ』だろ!?」
「俺は高校まで東京に住んでたんだよ……!」
 お互いに引っ込みがつかなくなってきたふたりは、あまりの暑さにぼうっとしてきたこともあり、汗をたらしながら真剣にじゃんけんを続けた。すると、ノックの音とともに熱波師が入ってきた。アウフグースのサービスをしにきたらしい。
「アウフグースってあれか……さっき礼音が言ってた、あっつい空気を浴びるってやつか」
「結人、お前そろそろ限界だろ。やめといたほうがいいんじゃないのか」
「いや、まだ大丈夫だ。礼音こそ無理そうだからそう言ってるんだろ」
「俺だって別に平気だ。スタッフさん、大丈夫です。お願いします」
 再びロウリュが行われると、結人も礼音も「うおお……」と上がりそうになる声をぐっとこらえた。そして熱波師が大判のタオルをくるくると振り回し、ロウリュで上がった熱い水蒸気をばさばさとふたりに送る。
(うわっ、なんだよこれ……! サウナ好きってのは、こんな苦行に耐えてるのか!?)
(す、すごい熱波だ……。今まで体験したサウナの暑さとは比べ物にならないぞ……!)
 熱波を送られる間、ふたりは閉じた目を片方だけちらりと開け、お互いの様子を伺っていた。しばしの後、熱波師が一礼して出ていくと、再びふたりだけの時間が訪れる。

「フー……」
「フゥ……」
「……おい礼音、大丈夫か。本当に汗がすごいぞ」
「……大丈夫だって言ってるだろ。結人こそ顔が真っ赤だけど?」
「……いや、気のせいだろ。……で、さっきはどこまで話してたっけ……」
「……えっと……だから、ジャイロは負けないって話だよ」
「そうか……いやそうじゃねえよ、アルゴナだって負けないって言ってるだろ」
「……言っておくけどな……聞いて驚けよ、ジャイロは王者だぞ……!」
「……それ、さっきも言わなかったか……?」
「……そうだったか? くそっ、何かもうよくわからなくなってきたな……」
「フゥ……」
「フーッ……」
 静かに流れるヒーリングミュージック。うつろな目で室内のタイマーを見つめるふたり。秒針が何周したかわからなくなった頃、結人が口を開いた。
「……なあ礼音。ひとつ、提案があるんだけど……」
「……なんだよ……」
「……水風呂に行かないか……?」
「……! 俺、初めてお前の意見に心から賛成できた気がする」
「よし、行こう!」
「行くか……!」
 よろよろと立ち上がった結人と礼音は、支え合いながら水風呂へと向かったのだった。

 冷たい水で熱を冷ましたふたりは、外気浴スペースのデッキチェアに手足をだらりと広げて横たわった。温冷刺激によって、ふたりの脳内に広がる多幸感。しばらくすると、どちらともなくぼそりとつぶやき始める。
「すげえな……」
「ああ……」
 うっすらと蕩けそうな微笑みを浮かべた結人が、同じ表情になっている礼音に語りかけた。
「“ととのう”って、こういうことなんだな……」
「本当だな……。今までの体験とは、比べ物にならない“ととのい”だ……」
「なあ、礼音……」
「なんだよ、結人……?」
「音楽って、本当に素晴らしいものだよな……」
「わかる……。俺、ギターを弾けるだけで幸せだよ……」
「俺もだ……世界平和って、こうやって生まれるのかもな……」
「ああ……。これからも、お互いに頑張ろうな……」
「そうだな……」
 こつりと拳を合わせるふたり のギタリストの間に、優しく涼しい風が吹いていた。

 日が沈み、徐々に薄暗くなってきた頃。バンドマンたちが宿泊する施設の廊下を、とぼとぼと歩くシルエットがひとつ。大きな瞳に涙をにじませたその人は、風神RIZING!の若草あおいだった。
「ぐすっ……風太のバカ……岬のあんぽんたん……大和のお米野郎……」
あることが原因でメンバーと喧嘩してしまったあおいは、一人で部屋を飛び出してきてしまったのだ。だが怒りと悲しみでいっぱいになっていたせいか、部屋を飛び出してからの道がわからなくなってしまった。つまり、あおいは迷子になったのだ。
「あれ? ここ、どこだろう……。俺たちの部屋ってどっちだっけ……?」
  このまま戻れなかったら、みんなは自分を探しに来るだろうか?けれど今のあおいの頭に浮かぶ彼らの姿は、まるで小学生のようにふざけ倒していて、とても自分のことを心配できるようには見えなかった。
「もういいや、あいつらのことなんて知るか」
 唯一の大人である絋平に迷惑をかけるかもしれないと思うと心が痛むが、少々やけになったあおいは、行くあてもなくぶらぶらと歩き続けた。

「ねえ。もしかして、フウライのあおいくんだよね?」
 いきなり名前を呼ばれたにも関わらず、その穏やかでのんびりした声は、あおいを少しだけクールダウンさせた。振り向いた視線の先にいたのは、GYROAXIAの曙 涼だった。
「あ。曙さん……」
「あれ。あおいくん、目が真っ赤になってるよ」
「な、なん でもないです!」
 あおいは慌てて手の甲でごしごしと目元をこすった。
「うーん、なん でもなくないよね。ほっぺたに、涙が流れたあとがある。悲しいことがあったの?」
「う……」
 涼の優しい問いかけに、あおいの涙腺は再び決壊した。それを見た涼は、ズボンのポケットを探り始める。
「ごめん。オレ、ハンカチ持ってないや。お菓子なら入ってたけど、 食べる?」
「大丈夫です……」
「そっか。いまオレ、捜しものをしてたんだよね。あおいくんたちの部屋のほうも探してみようかな。どっち?」
「あの……それが、わからなくなっちゃって」
「この施設、すごく広いもんね。……じゃあ、一緒に行こう。オレが探しているものも、そのうち見つかるかもしれないし」
「えっ、でも……」

 歩く涼のあとを、戸惑いながらついて行くあおい。すると涼が突然、「なんだかいい匂いがする」とどこかに向かっていった。あおいは慌てて後を追った。
  ふたりがたどり着いたのは、Argonavisの宿泊している離れだった。訪問者に気づいて出てきた白石万浬に、涼がにこにこと話しかける。
「こんばんは、白石くん」
「曙さんじゃないですか、 びっくりした……ジャイロも来てたんですね。急にどうしたんですか?」
「うん。オレはさっき着いて、この施設の中で探しものをしてたんだ」
 万浬の背後から、わらわらと「どうした?」「誰か来たの?」と、Argonavisのメンバーが現れた。
「ああいや、ジャイロの曙さんが……って今気づいたけど、後ろにいるのはあおいくん?」
 泣いていた顔をこれ以上人に見られたくなかったあおいは、涼の後ろに隠れるようにしてうつむいていた。その姿を見た万浬は、何かに気づいた様子で言った。
「えっと……実は俺たち、ちょうど夕飯が始まったところなんですよ。お腹が空いてるなら一緒に食べてもらってもいいし、部屋に上がりませんか?みんなも別にいいよね」
 万浬のきっぱりとした言葉に、戸惑いつつも一同がうなずく。ほんのりと顔に汗をかいて暑そうにしている結人が、ぐびぐびとスポーツドリンクを飲みながら言った。
「いや、別にいいけどさ……万浬にしては珍しいな。ケチなのに」
「あのさ結人くん。そのケチな俺のおかげで、Argonavisがカツカツにならなくて済んでるのを忘れたの? それに俺のケチはそういうのじゃないの。夕食は食べきれないくらいの量だし、残すほうがよっぽど罪だよ!」
「はいはい、わかったって。……じゃあ曙さん、若草も。入ってこいよ」
「ありがとう、みんな。お邪魔するね」
 ご機嫌で部屋に入っていく涼の背中を見つめるあおいは、本当に上がってもいいものかとためらった。だがArgonavisのメンバーにも促され、部屋に入ることにしたのだった。

「つまりあおいくんは、フウライのメンバーと喧嘩して部屋を飛び出してきたってこと?」
 涼とあおいのため、おかずを皿に取り分けながら万浬が尋ねた。あおいがこくりとうなずく。
「何が原因だったの?」
「……くだらないことだよ。なんでそんなことで、ってなっちゃうくらい、ほんとにくだらないケンカ 」
「そうなんだー。地球人って、複雑だよね」
 ふむ、と頷いた万浬が続けた。
「俺たちもたまに喧嘩するよ」
「そうなの? アルゴナのみんなが?すごく仲が良さそうなのに」
 うつむいていたあおいが顔を上げ、驚きに目を丸くした。
「うん。最近はさすがに減ってきたけど……うちも、原因はくだらないことだよ。コンビニで定価のアイスを買ってきちゃったとか、特売日を忘れて買い物をしたとか、牛乳にリスペクトが足りないとか」
 横で聞いていたほかのArgonavisメンバーが「それで怒るのは主に万浬じゃないか?」とヒソヒソつぶやいた。
「ま、うちもいろんなことで喧嘩したり言い合いしたりするのはしょっちゅうって話」
「ジャイロもあるよー、言い合いすること。でもオレ、いつも思うんだ。地球人って、本当の気持ちとは違う態度を取ることも多いのかなあって」
「……」
 再びうなだれたあおいに、万浬が言った。
「なんかさ。本当に相手のことが嫌だと思ったら、喧嘩にもならないと思うんだよ。その人のことが好きだから、わかってほしいから喧嘩になるんだよね。……実はさっき、ここに来たときのあおいくんの顔を見てさ、俺の弟たちのこと思い出したんだ」
「白石くん、弟がいるの……?」
「うん。俺は5人きょうだい の次男坊でさ、下にふたり弟がいるんだ。あいつら、喧嘩するとお互いのことを大嫌いだって言うんだけど、本当はそう思ってないって顔に書いてあるんだよね。だけど、どうしていいかわからないんだ。さっきのあおいくんの顔も……いや、あおいくんを子どもだって思ってるわけじゃないからね!?」
「うん……」
 穏やかな笑顔を浮かべてふたりを 見ていた涼が、再び口を開いた。
「フウライのみんなも、すごく仲良しだよね。すごく長くて古いつながりがあるって感じがする。いつも楽しそうだし、お互いが大好きなんだろうなっていうのがわかるよ」
「そうだけど……でも、ずっと変わらないままでいいのか、わからなくなってきちゃったんだ」
 すん、と鼻を鳴らすあおいに涼が続けた。
「ジャイロはさ、『言わなくても通じてる』感じがするんだよね。でもやっぱり、言い争いは起こる。そうすると地面がちょっとだけ揺らぐんだけど、それがおさまると、前よりもっと足元がしっかりしてくるんだ。それが、オレには心地いいのかも」
「ああ、わかる気がします。うちも……俺の兄弟も、アルゴナも、喧嘩のあとは絆が深まるっていうか、お互いをもっとよく理解できるようになるってことなんだろうな。あおいくんたちのところもそうでしょ?」
「地球人って、言葉にしないと伝わらないことが多いんだよね。だから、思っていることは言ったほうがいいんだと思う。大好きな相手のことなら、きっと受け止めてもらえるよ」
「そうだね……ありがとう。白石くん、曙さん」
「いいっていいって。それよりあおいくん、さっきからあんまり食べてないみたいだけど、別に遠慮しなくていいんだよ? ご飯はタダでおかわりできるみたいだし!」
 おどけた表情で言う万浬に、あおいが照れくさそうに答えた。
「うん……もしかしたら、あいつらが待ってるかもしれないなって思ってさ。フウライは、できるだけみんなで一緒に食卓を囲むようにしてるんだ。いつも」
 万浬と涼、そして余計な言葉を挟まないように別の話をしていたArgonavisのメンバーたちが、あおいに微笑んだ。万浬と涼はあおいを部屋まで送っていこうかと申し出たが、あおいは「一人で大丈夫だから、みんなとの時間を楽しんで」と、部屋を出ていった。

「それじゃ、そろそろオレも部屋に戻ろうかな。星がよく見えそうだし、庭を散歩しながら帰るね」
 立ち上がって伸びをする涼を、部屋の外まで見送りながら万浬が聞いた。
「はい。あ、そういえば曙さん、何か探しものしてるって言ってませんでした?」
「ああ、それならさっき見つけたよ」
「……? そうですか。じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」
「うん、ありがとう。またね」

 ひとり、夜空を見上げながら歩く涼。
「オレの星は……あった、あそこだ」
「……ねえ、故郷のみんな。今日もまた、“幸せ”を見つけたよ。オレ、役に立てたかな?立ててるといいな」
「そっちに帰れる日が、少しだけ近づいたね。でもオレは、まだやることがあるみたい」
 ポケットのスマホが震え、涼がそれに応えた。
「もしもし、ケンケン? うん、今そっちに戻ってる。みんな揃ってるの?わかった。オレも一緒に食べるよ」
 通話を終えた涼はほんの少しだけ歩みを早め、仲間のもとに向かうのだった。

PAGE TOP