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2022.06.22Info

【L★R Rock Battle】AFTER STORY 2章【風神RIZING!】

「なんにもわかってない。出てく」
 そう言って、あおいは部屋を出ていった。

 長期間開催されたライブイベント『L★R Rock Battle』を終えた風神RIZING!が、運営局からお礼にと手配された慰安旅行。
招待メールに書かれていた宿泊先は、この温泉地の中でも有名な高級旅館だった。彼らが今夜から泊まる部屋は比較的リーズナブルなほうらしいが、それでも広さと品の良さ、そして快適さをすべて備えている。
到着して扉を明けた途端、大きな窓から差し込む夕暮れの美しさに五人揃って感嘆の声を漏らしたほどだ。 彼らのペットであるイグアナのレックスは旅行にあたってはなまる商店に預けてきたから、あいつには内緒で、と皆で密約を交わした。

 早速館内着の浴衣に皆で着替え、部屋中を探索した末に、お馬鹿たちが押入れの奥から枕の群れを見つけ出した。そば殻、羽毛に低反発枕。きっと好みの枕を選べるように何種も用意されているのだろう。
「いろんな枕がいっぱいあるばい! 枕投げしよ!」
「おう! 絋にいにはフワフワのやつしか渡しちゃダメだぜ。怪我人が出るからな」
 ふたりは次々と枕を出し、布団も使ってバトルのフィールドを作っていく。ころころと転がって、実に楽しげだ。
「こんなに枕があるのか……頭が何個あっても安心だな。さすが高級旅館」
 大和は妙なことに感心して、うんうんと頷いている。絋平はすでに呆れ顔だ。
あおいは慌ててふたりを止めに入った。
「ストップ! 布団はあとで仲居さんが敷いてくれるから、ぐちゃぐちゃにするな」
「えー! あとでオレたちがちゃんと片付けるけん、よかやろ! あおいもやらんと?」
 小さな枕をぽんぽんとお手玉のようにして遊びながら、風太が言う。岬も続けた。
「ガキの頃も、泊まりといえば枕投げだったじゃねえか。ずっと変わってねえよ」
「そうだけど……」
 あおいは少しうつむいた。
「……そうだからいやなんだ」
 ぽつりとつぶやき、座り込んだままきゅっと拳を握る。あおいの様子に不穏なものを感じた岬は身構えたが、風太には通じていないようで、きょとんとして首を傾げた。
「ずーっと同じでずーっと楽しいんは、ええことやろ?」
 その言葉を聞いた途端、幾人かの表情がほんの一瞬だけ凍った。
そしてあおいはすっく と立ち上がり、まっすぐ部屋から出ていってしまったのだった。
 皆が黙ってしまった部屋で、大和が独りごちる。
「あおいは怒ってたのか、それとも悲しかったのか……?」
「……わかんねえよ……って、うおっ」
黙って見守っていた絋平は、猫でも捕まえるようにして風太と岬の首根っこを掴んだ。
「わわわ」
「おい絋にい、浮いてる! 浮いてるって!」
「ふざけすぎだな。お前ら、手分けしてあおいを探しに行け」
 真面目なトーンで叱られ、風太と岬はさらにしゅんと落ち込んだ様子だ。
「俺はフロントに寄ってから行く。夕食の時間を遅らせてもらわないと」
 吊られたままのふたりは、こくりと頷いた。
 そんなやり取りを聞きながら、いつもより少し神妙な様子だった大和が口を開いた。
「俺はどこを探しに行けば良い?」
 絋平と岬は声を揃えて言った。
「お前は部屋で待ってろ」

 岬は大浴場へ向かった。
 この宿の売りになっているだけあって、広大な面積にサウナや数種の露天風呂など様々な施設が揃っている。怒りを落ち着けるにはぴったりだろう。
 上品な調度品に囲まれた受付を抜け、暖簾をくぐると脱衣場が広がっていた。
「うおお……広すぎる、ピカピカすぎる……!」
 思わず声が漏れた。岬たちが住むシェアハウスの近所の銭湯とはまるで違う。
 背の高い籐のロッカーがきれいに並んでいて、整備された畑のようだ。岬は幼い頃に風太たちと遊びに行った、親戚のとうもろこし畑を思い出した。
 そういえば、あのときもあおいを探していた。畑の中でかくれんぼをしているうちに、あおいだけがはぐれたのだ。風太とともに小さな体で畝の間を進み懸命に捜索したが、結局あおいを見つけたのはとうもろこしより背の高い大人で、悔しい思いをした覚えがある。見つかったあおいはもちろん大泣きしていた。
(変わんねえのがヤダ、っつってたのか? でも、あいつだって変わんねえじゃねえか。……見つけらんねえ俺も)
 とうもろこしの代わりにロッカーの間をすり抜けていくと、ふいによく知った背中が目に入った。
「あ! 界川さん!」
「……ん? ああ、五島」
 GYROAXIAのドラム、界川深幸だった。ドラマー同士、そしてあのバンドの中では比較的話しやすいこともあって、 L★R Rock Battleの期間中に仲を深めた相手のひとりだ。
 ロッカーの前に立つ深幸は今まさに服を脱ごうとしていたところらしく、シャツの裾に手をかけたままだった。
「お前も風呂?」
「や、違うんす。実は……」
 あおいのことを伝えると、深幸は首を横に振った。
「ふうん。見てないな。俺もさっき来たばっかだけど」
「そっすか……。スンマセンけど、あいつ見かけたら連絡ください」
 次はラウンジか。他にもお土産の売店、レストラン、足湯。館内だけでもたくさんの施設がある。探しきれるだろうか。
 ぺこりと頭を下げ、踵を返そうとした岬の肩を、深幸の手ががっしりと掴んだ。
「まあ待てって。どうせなら一緒に入っていこうぜ。ひとりも釣れなくて寂しかったんだよ」
 大浴場へ行こうとジャイロのメンバーを誘ったが、誰も乗ってこなかったらしい。なあ、と肩を抱いてくる深幸の誘いに、岬の心は揺れた。
(くう……たしかに、界川さんとはゆっくり語り合いてえ)
 男同士裸の付き合いだなんて、ヤンキー気質の岬にとっては憧れだ。生意気な奴と不気味な奴ばかりのジャイロで、どうやってバンドをまとめているのかも気になる。
 しかし、今の岬には放っておけない重大な任務がある。
「めちゃくちゃ行きたいっすけど、でも、あおい探さなきゃいけないっすから……」
 ぎゅ、と絞るように出した台詞には、明らかに『悩んでいます』と気持ちが乗っている。深幸は何かを考えるように小さく息をつくと、そらとぼけた様子で言った。
「若草ももう中入ってるんじゃねえの? 俺と一緒に入って確かめてみればいいじゃん」
 ……たしかに! 手を打ちたくなるような名案だと思った。岬は単純バカだった。
「さすが界川さんだぜ、こういうのなんつーんだっけ……一撃二トン?」
「一石二鳥な。重量級パンチにも程があるだろ」
 深幸は目を細める。
 ふたりは隣り合ってロッカーに衣類を放り込んでいく。深幸がシャツを脱いだところで、岬はおお、と声を上げた。
「界川さんやっぱ鍛えてるんすね。肩も腕も腹筋もすげえ」
「お、わかる? 最近忙しかった分、家でのトレーニングに気合入れてたんだよ」
 深幸はそう言いながら、腕を曲げて少しポーズを取ってみせる。気障っぽい様子でも様になるのが彼らしいところだ。岬も真似をして、力こぶを作ってみる。
「俺も頑張ってるんすけどね……なんか、高校ぐらいの頃からいまいち代わり映えしねえんだよな」
「ドラマーはパワーが大事だもんな。俺のトレーニング方法教えてやろうか」
「いいんすか! フウライの他の奴にもお願いします! あおいも筋肉つかねえって悩んでたんで」
「もちろん、いいぜ」
 わいわいと話しながら、深幸は浴場の扉を開ける。続いて中に進むと、噂に違わぬ大きな内湯が見えた。
「うおお! スッゲー広……おおおぉッ!?」
 岬は勢いよく飛びのいた。勢いづきすぎて一瞬浮いたかもしれないほどだ。飛んだ拍子に床に打ち付けたお尻がじんじんと痛い。
――何かとんでもねえもんを見た気がする!
「いや、驚きすぎだろ……。偶然ですね、虎春さん」
 深幸の声が浴場に響く。そうだ、内湯に浸かっている、あの小さいのにやたらと頼もしい背に、明るい色の髪は。
「おう。界川か」
 Fantôme Irisのベース、御劔虎春が手をあげた。ライブではウィッグやスカートを身に着ける、いわゆる女形だ。その女装姿は岬が過去に勘違いで惚れ込んでしまったことがあるほどに美しい。
普段の虎春は男性の姿で過ごしていて、今も当然女装はしていない。頭の上にタオルを乗せて、いかにも温泉を楽しんでいるふうだ。まさか温泉で出くわしてしまうとは、と岬は温泉のせいではない汗をかいた。あのときの幻想を思い出すと変に緊張するのだ。
「で、さっきすっ転んだのは?」
「俺です!」
 浴場の入り口から食い気味に返事をすると、遠くで虎春が少し笑っているのが見えた。
「岬な。体大丈夫か? すげえ音だったけど」
「こんくらいなんともないっす」
 嘘をついた。まだ結構痛む。思うところはたくさんあるが、まずは痣になっているかもしれないお尻をなんとかして隠し抜こうと固く決意した。カニのように横歩きをして、なんとかかけ湯までたどり着く。その間にも深幸はさっさとかけ湯をすませて、虎春の隣に浸かっていた。ぐっと体を伸ばして心地よさそうな様子が、今の岬にはとても羨ましく思える。
「つか、虎春さん、意外といい体してますね……。いつもヒラヒラの服着てるから気付かなかった」
「まあな。たぶん体質でさ、筋肉つきやすいんだよ。むしろあのカッコは男っぽさが出ないように頑張った結果だぜ?」
 大門がな、と付け加えてからりと笑う姿は、気っ風の良さが見える。今なお岬が虎春に憧憬を抱く理由でもある、兄貴分的なかっこよさだ。
「なるほどね。いきなりすみません、さっき五島とトレーニングのこと話してたから気になって……って」
深幸は呆れ顔で、まだかけ湯にはりついている岬に声をかけた。
「何してんだ? お前も来いよ」
 深呼吸した岬は崖から飛び降りるくらいの覚悟を決めて、一歩踏み出した。
「……押忍!」
――のぼせきった岬が深幸に担がれて浴場を後にするのは、それから十五分ほど経ってからのことだった。

「あおい~。どこにおると~?」
 風太はそこらじゅうに声をかけてまわりながら、あおいを探していた。特に目的地は決めていない。全て気の向くまま、勘で突っ走るのが風太流だ。
 途中ですれ違う人にあおいの特徴を伝えて、見かけなかったか聞いてもみたが、手がかり一つない。どこかに隠れているのだろうか。
 さまよう風太は、遊技場という札がかかった部屋にたどり着いた。
「おおー!」
 クレーンゲームにメダルゲーム、レースゲームなど様々なゲーム機が所狭しと並んでいる。家族連れがきゃあきゃあ歓声をあげながらエアホッケーに興じていて、なんともわくわくする空間だ。風太の目はきらきらと輝いた。
(こんな楽しそうなとこやし、あおいも来たかはずばい! ここで待っとればきっと会える!)
 そうと決まれば、ここで遊び尽くすしかない。まずは偵察と駆け出そうとしたとき、不意に背後から声をかけられた。
「神ノ島か?」
 振り向くと、落ち着いた雰囲気をまとった浴衣姿の男性がふたり 。Argonavisの桔梗凛生と、Fantôme Irisの楠 大門だった。飲み物を買いに来たところで偶然出くわしたらしい。
「オレ、しばらくここにおろうと思って。一緒に遊ばんね?」
 風太の突然の誘いにも、彼らは笑って頷いた。
「いいぞ。何をする?」
「よっしゃ! んー……あれやるばい!」
 風太が部屋の奥の卓球台を指さした。一台だけだが、ちょうど空いている。大門は、台の傍らにあった点数表を手に取った。
「では、俺は審判をやろう」
「お願いします。……ハンデはいるか?」
 凛生の言葉に、ばちっと風太の中のスイッチが入る。やってやる、と気合を入れてぐいっと浴衣の袖をまくった。
「そんなもんはいらん! ガチンコ勝負ばい!」
「いいだろう。試合開始だ」
 凛生がふわっと優雅にボールを放ると、次の瞬間鋭いサーブが飛んでくる。しかし風太も負けてはいない。持ち前の反射神経でぱっと反応し、ラリーは続いていく。大門が感嘆の声を漏らした。
「すごいな、お前たち。習っていたのか?」
 何往復続いただろうか。十点決まる頃には互いに汗ばむほどにいい勝負だった。
「俺は誰にも習ったことはないです。アルゴナに入る前にたくさんのサークルや部を渡り歩いていて、そのときに卓球もやったことはありますが」
 さすが甲子園出場経験のある元スポーツ少年らしく、どんなスポーツでもそつなくこなしてしまうのだ。もっとも、なんでもこなせるのはスポーツだけに留まらないのが桔梗凛生だが。
「神ノ島も野球をやっていたんだろう?」
「おう! 岬と一緒に少年野球ばやっとった。凛生みたいにでっかい大会出たりはせんかったけど、楽しかった!」
 風太は大門からもらったペットボトルをかっと飲み、大きなピースサインを作る。
「楠さんはスポーツやってましたか?」
「いや、あまり。学校の授業でやったくらいだな」
「意外です。体格も恵まれていますし、色々な部からスカウトがありそうなので」
 大門はうんと唸った。スカウトをされるたび、競うのは得意ではないからと断り、代わりに応援に行っていたらしい。
「自分なりに調べて、ドリンク用にハニーレモンを作って差し入れをしたりして、なかなか好評だった。うちの店でもレモネードとして出している。実は、レシピに少し工夫があるんだ」
「へえ、あのレモネードですか。今度ぜひレシピを教えてくれませんか」
 残念だが企業秘密だ、と口の前で指を立ててみせる大門は、普段表情の読みづらい彼にしては珍しく、少しいたずらっぽい顔をしていた。
「オレ飲んだことない!」
 ぴょんぴょん跳ねながら不満を訴える風太に、凛生は笑って答える。
「じゃあ、この勝負に勝ったほうがレモネードを奢る。いいか?」
「おお、ええね! そういうのがあるともっと燃えるばい!」
 両者の間に再び火花が散って、休戦タイムに終わりを告げた。
 結果は風太の惜敗だった。
「くあー! 悔しか! 凛生は強すぎるばい!」
「俺に負けるのは仕方がないさ。あまり気にするな、神ノ島」
 凛生は全く嫌味っぽさのない口調で、すごいことを言ってのける。
「ふたりともよく頑張ったな。次に来たときにはレモネードをご馳走する」
「ええ、ほんとね!? 大門さんは太っ腹ばい」
 風太は小躍りしそうなほどに喜んでいた。一度目は凛生と行こう。そして二度目は絶対にフウライの皆で行こうと決めた。

 あおいがArgonavisの部屋からの帰路についていると、よく聞き慣れた歓声が道すがら聞こえてきた。少しの気まずさを胸に覚えながら声の元の部屋を覗き込むと、案の定、風太が飛び回っていた。それよりも風太の隣にいる人物に驚いてしまう。
「あれ……大門さんと、桔梗くん?」
 思わず口を滑らせると、風太がはっと気付いてまた喜びの声をあげた。
「やっぱりここで待っとったら会えたばい!」
どすんと飛びつかれて、あまりの勢いにあおいはのけぞった。そして今度は風太が、あおいの肩越しに人影を見つける。
「あ! 虎春さん、深幸さん! それに……岬!?」
湯上がりで浴衣姿の虎春と深幸、そしてその背に負われる岬の姿がそこにあった。大丈夫かと駆け寄る風太とあおいを、ぼうっと溶けたような岬の目がとらえる。
「んあ」
 突然、深幸の背に負われていた岬が寝ぼけ声をあげた。あおいを指して、うわ言のようにつぶやく。
「みつけた……こんどこそ、おれたちでみつけた、ぞ………」
 そう言い残して、再びがくっと項垂れた。
「……寝とる」
「ほんと……なんなのこいつ」
 途方にくれた風太とあおいに、ふたり のよく知る声が続いた。
「変わった奴だな」
「はあ……あおいを探せって言ったのに、何してきたんだか」
 大和と絋平だった。示し合わせたように集まってくる登場人物に、あおいは目を白黒させている。
「評判通りいい湯だったぜ、大門」
「また会ったな、若草」
「なんね凛生、あおいに会っとったと?」
「おい岬、大丈夫か?」
 わいわいと騒がしくなる中、互いに状況を説明した。
 絋平はフロントに寄ったあとは各バンドの部屋を訪ね、あおいとはすれ違いでArgonavisの部屋にも行ったらしい。蓮たちに聞いてあおいの通りそうな道に当たりをつけて、見事見つけ出したというわけだ。
 一方の大和は、小腹がすいたので売店に行こうとして、正反対にある遊技コーナーにたどり着いていた。

 皆に心配をかけていたことを改めて知ったあおいは、深々と頭を下げた。
「理由も言わずに出ていってごめん」
 頭を下げた途端にじわりと目の奥が熱くなってきて、悔しい、とあおいは思った。泣いてしまうと言いたいことも言えなくなりそうなのに、そう思うほど熱は増してついに溢れてくる。
「俺さ。皆であれだけ頑張って、投票も惜しいところまでいって……今日の豪華な旅行より、ライブを全部やりきったことが一番嬉しかったんだ。また俺たちなりに成長できたかなって思ったから」
 一生懸命言葉を紡ぐ姿に、皆が真剣に寄り添ってくれる。フウライはもちろん、ただならぬ空気を感じた他のバンドのメンバーもだった。少し恥ずかしいが、ありがたいとも思う。
「成長したはずなのに、なんか……前と全然変わってないなと思って、ちょっと悲しかったんだ。風太と岬がバカやって、絋にいは呆れて、大和は天然ボケして……俺は怒ってて。しかもすっごくくだらないきっかけで! それもまた悔しくってさ」
 あおいはぎゅっと目元を拭う。
「風太が言うみたいに、ずっと一緒でずっと楽しいのも、俺たちのいいところなんだと思う。でも、やっぱり大きくなりたいんだ、俺たちらしく。だから……これからも一緒に頑張ろう」
 時折息をつきながらも言い切ったあおいの手を、風太が握った。
「あおい。……ごめんな」
「風太は謝るな。俺の葛藤が無駄になる」
「ええ!?」
 また言い合いが始まりそうなふたりを横目にして、絋平は深幸の代わりに岬を背負った。
「虎春さん、大門さん、内輪の揉め事に付き合わせてしまってすみません、ありがとうございました。桔梗もな。界川も、岬を運んでもらって悪かった」
 いいってことよ、と深幸は手をひらひらさせて答える。
「で、どういうきっかけで喧嘩したの?」
「……あー……。枕投げだ」
 絋平の答えに、深幸は驚いているような、噴き出しそうな、色々な気持ちが混ざった顔をした。何か言いたげだったが、ぐっと飲み込んだようだ。
「まあ、本人たちにしかわかんねえこともあるよな」

 揃って帰っていく風太たちの背を見ながら、深幸は茶化すようにつぶやいた。
「これが青春ってやつかね、桔梗」
「ふふっ。そうかもしれません」
 凛生が笑うと、その肩を虎春がとんと叩いた。
「お前らも歳変わんねえだろうが」
「ああ。俺たちからすれば、お前たちも十分青春だ」
 そう言うふたりの瞳は、若者たちを見守る優しさに満ちていた。

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